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ベリンジェリにしか表現できないタンゴ世界がある
タンゴの黄金期=1940年代を身をもって知る、最後の“現役”音楽家、
オスバルド・ベリンジェリ、当年79歳。マニアをして「齢を重ねてま
すますスリング!」と感嘆せしめる、衰え知らずのピアノ奏法は、圧巻の個性にいろどられ、今なお他の追随を許さない。
1956〜68年、名門トロイロ楽団で活躍するも、ためらいなく時代を先取。のちに、豪放トリオで鳴らしたかと思えば、典雅な大編成サウンドで軽々とタンゴの地平を飛翔。そして80年代半ば、ブロードウェイで爆発ヒットしたショー「タンゴ・アルゼンチーノ」にソリストで招かれ、国際的名声を手にする。
だが、ベリンジェリは、いかなる伝統様式や予定調和をも甘受せず、成功の定石にも決して安住しない。つねにオリジナルでありつづけることを己の使命としてきた鬼才は、ときに自ら確立した奏法ですら取捨選択し、さらなる高みへと向かう。「個性なくしてタンゴの進化なし」を実践するマエストロ、守勢や枯淡の境地とはいっさい無縁なのだろう。今日の若きタンゴ演奏家は、ベリンジェリの姿勢をこそ鑑とすべし、だ。
1940年代を“黄金期”と呼ぶゆえんも、実はそこにある。黄金の名にふさわしい時代を担ったのは、あまたの傑出した個性のきらめきだった。多様な個性がシーンにあふれ、音楽としてのタンゴを格別豊かなものに発展させたのだから。ダンスブームや景気の後押しだけで、音楽的な進化は成し得ないものだ。
2003年、2005年の好評を受けてお届けする、この度の来日公演。 永遠に、自由な空気の中にタンゴを解き放つ、ベリンジェリ・サウンドの薫風を、肌で感ずる好機。どうかお見逃しなきよう。
<音楽ライター 佐藤由美> |